特定非営利活動(NPO)法人 言語発達障害研究会



 

インターネットを中心とするオンライン情報の活用

横浜市総合リハビリテーションセンター

佐竹恒夫


目次

要約

はじめに


要約

言語発達遅滞児への臨床活動にどのように関連し役立つかという観点からインターネット(パソコン通信を含む)活用方法について述べた。

(1)臨床情報の発信手段として言語発達遅滞研究会ホームページ,
(2)E-Mail(電子メール)の「ことばの相談」,
(3)臨床に関連した情報として,
 (a)AAC(補助代替コミュニケーション)関連情報,
 (b)医療・福祉・障害関係のカタログページ,
 (c)書籍カタログ・オンライン書店・オンラインの図書館目録サービス(OPAC),
 (d)文献検索,
(4)言語発達遅滞研究会メーリングリストによる臨床情報の交流,
 について紹介した。

 専門家以外の人への情報の公開性を高めることができることと,インターネットから得た情報の著作権への配慮の必要性について強調した。

<目次に戻る>

はじめに

この1〜2年の間,インターネットの話題がマスコミに登場しない日はない。しかし私達が日頃行っている言語発達遅滞児への臨床活動にどのように関連し役立つか,という観点からインターネットを紹介する情報は少ない。そこで本稿では臨床上有意義な情報の受信と発信に筆者がインターネット(パソコン通信を含む)をどのように活用しているか,具体例をあげながら述べる。筆者自身パソコン通信を含めたインターネットのシステムや文献データベース等に精通しているわけではないが,言語療法士によるインターネット活用の1つの事例として情報を提供したい。 

注)インターネットの歴史や一般的な解説は最小限にとどめる。

「WWWに関する日本語による解説」
[http//www.ntt.jp/SQUARE/index-j.html]
(インターネット上のアドレスを[ ]内に記す)中の
「World-Wide Web」(高田敏弘)参照。

日本のインターネットの現状等については 日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC) WebServer
[http://www.nic.ad.jp:80/index-j.html]参照。

インターネット上の情報には,郵便葉書や手紙にあたる電子メール,ミニコミ誌や雑誌・新聞にあたるメーリングリストやニュースグループ,図書館に収蔵されている雑誌や本にあたる電子データ,各種のソフトウェア(フリーウェアは無料,シェアウェアは有料),など種々のものがある。

その中でもインターネットが俄然注目されるようになったのは,ホームページないしWeb(WWW,すなわちWorld Wide Web注)による。WWWは,HTML(=Hyper Text Markup Language)という一種のプログラミング言語で書かれている。HTMLとは「スイスの粒子物理学研究所で考案された,ハイパーテキストの考え方に基づいて情報をたどる手段を提供するナビゲーション(航海術,航法)トゥール」のことで,「文字・画像・音・映像など扱える」1)。

HTMLによりインターネット上の異なるコンピューターに蓄積された各種の情報がリンクし,そのリンクをたどることにより境界を意識することなく他の関連した情報へと飛び回ることができる。世界中のコンピューターにある情報のネットワークからなる海を渡り歩くことから,これを称してネットワークサーフィンという言葉も生まれた。またWWWはテキストデータ(文字情報)のみならず,画像,音や声,さらに動画までを統一して扱えることが可能で,特にマスコミの報道で強調された「マルチメディア」性も合わせ持っている。

注)なお本稿ではホームページとWeb(WWW,World Wide Web)をほぼ同義のものとして,以下ホームページの語を用いる。

これから活用の具体例を交えながら,
1. 臨床情報の発信(言語発達遅滞研究会ホームページ),
2. E-Mail(電子メール)の活用,
3. 臨床情報の探索,
4. 臨床情報の交流(言語発達遅滞研究会メーリングリスト),
の順に記す。またインターネット上では予期せぬコミュニケーションが生じたり情報を発見する場合があるが,その例として,
2. E-Mail(電子メール)の活用で子供の言葉の相談
(2.2. 事務局宛メール),
3. 臨床情報の探索で(2)認知科学会から千葉大コーパスプロジェクト(3.2.2.)へ,の2例を交えて紹介する。

注)インターネット上の情報は刻々と変化しており,本稿で記したアドレスやその他の内容も変わる可能性が高い。本稿に掲載している内容は基本的に96年8月末現在の情報である(97年2月末に一部更新)。言語発達遅滞研究会ホームページでは,より新しいリンク情報等を順次掲載する予定である。

<目次に戻る>

1.臨床情報の発信-言語発達遅滞研究会ホームページ

言語発達遅滞研究会では95年12月にホームページを開設した。

言語発達遅滞研究会のホームページ
(図1,2=省略)[http//www.linkclub.com/~t-satake/]
(97年4月から移行。95年12月から97年2月まで
[http://www.bekkoame.or.jp/~t-satake/]) では,
会の案内 (図3) ,入会申し込み (図4),定例会や学術講演会の案内 (図5) ,講習会案内 (図6),教具の紹介 (図7) ,検査マニュアル・訓練マニュアルや「言語発達遅滞研究」等の著作の紹介 (図8) ,他のホームページへのリンクや文献検索等が掲載されている。

各ページはホームページを起点にリンクしており,ホームページから定例会の案内へ,ホームページに戻り著作の紹介へ,というように移動できる (図9) 。

この言語発達遅滞研究会ホームページのメールを利用して,入会案内送付の依頼や会合に関する問い合わせ,書籍や雑誌「言語発達遅滞研究」の注文が来ている。 

<目次に戻る>

E-Mail(Electronic Mailの略)とは,電子メールのことである。
相手のメールアドレスを知っていれば,インターネットを経由して世界中にメールを送ることができる。ちなみに筆者のE-Mailアドレスは, 「t-satake@air.linkclub.or.jp 注)」 である。

注)t-satake@air.linkclub.or.jpは,「日本のlinkclubという団体のt-satakeという個人」を同定するインターネット上の「住所」である。

t-satake:linkclubネット上の筆者のID(氏名),linkclub:インターネット上の組織名,or:インターネット上の組織区分で
"or"ganization団体(任意団体・通信サービス),jp:Japan国名。

組織の区分には他にgo:government(政府機関),ad:administration(日本ネットワークインフォメーションセンターJPNIC会員),co:company(企業) ,ac:academy(大学・研究機関等の学術機関)等がある。ドメイン名(住所)の管理等については, 日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) WebServer[http://www.nic.ad.jp:80/index-j.html]参照。)96年7月に行なった第3回学術講演会で抄録集を作成するにあたり原稿の送付方法を例に執筆者から事務局へのE-Mailの利用状況をみると,

(a)手書き原稿を郵送1人,
(b)ワープロ原稿を郵送1人,
(c)ワープロ原稿をファックスで送付1人,
(d)フロッピィを郵送1人,
(e)パソコン通信・インターネットのE-Mailで送信1人だった。

このうち(b)と(c)は執筆者が1度ワープロやパソコンでキーボードに打ち込んだのと同じ文字を再度事務局側でも打ち込まねばならず,二度手間となり非効率的である。(d)は電子情報をフロッピィに保存し電子情報として取り出せるので再度打ち込む必要はないが,電子情報を一旦フロッピィという物理的な物に変え郵送するため包装や投函の手間がかかる。(e)のE-Mailで送付することが電子情報を電子情報のままで送付するので最も効率がよい。E-Mailの利点は以下のような点にある。

(1)座ったままで机上から送付でき,送付の手間がかからない。
(2)即時に着く(数秒〜数時間内,ただし途中の経路や混雑具合により1日以上かかることもあるので注意が必要)。
(3)1人に送るのと同じ手間で1度に多人数に送ることができる
(同報メール)。
(4)受取人の都合のいい時に,いつでも読むことができる。
(5)料金が安い(利用環境によるが,電話代とプロバイダー接続料金を含め10円〜30円程度)。
(6)電子情報をそのまま保存できる。後で確認でき,再利用も可能(再入力しなくてよい)。
(7)国内・海外を問わず離れたところにいる人と同時的なコミュニケーションが可能。

注)Nifty-ServeやPC-VANなどの大手通信業者からもインターネット経由でのメール受信・発信は可能である。例えばNifty-Serveでは,Nifty-Serve内の相手にメールを送付する場合に宛先は「TO:LDB02722」だが,宛先がNifty-Serve外のインターネットの場合は宛先の「TO:」以下にインターネットを意味する「inet:」を書き,インターネット形式でアドレスを記せばよい。
「TO:inet:t-satake@air.linkclub.or.jp
SUB:抄録集の送付について
以下本文」 

<目次に戻る>

96年6月に言語発達遅滞研究会ホームページ上の「事務局宛メール」で,以下のような子供の言葉の相談が届いた。

『To: t-satake@bekkoame.or.jp
comment : わが家には、2才になる、精神発達遅滞による、言語の遅れのある子供がいます。

今はまだ話しませんが、いろんな音を出し始め、言葉をはなす、兆しが見える気がします。

言葉を促進する為には、日頃どういう、ふうに、トレーニングすれば、いいでしようか?何か情報があれば教えて下さい。』

差出人であるAさんと何回かメールをやりとりするうちに,在米の日本人の方だとわかり,資料として「きこえとことばの療育」2)を送付した。同時に第3回学術講演会のインターネットの講演でメールを紹介する許可をお願いしたところ以下のような返信が来た。

『Date: Tue, 9 Jul 1996 10:44:26 -0700
Subject: パンフレットありがとうございました
パンフレットありがとうございました。こちらは、7月上旬に連休があり、私は旅行に行っていたので、お礼が遅くなって、申し訳‥‥

あのパンフレットは親が読んで、とてもわかりやすいものでしたので、大変たすかります‥‥それと、私のメールの件ですが、ぜひぜひ、講演会で話していただければ、幸いです。もし、必要であれば、住所に触れて頂いても、うちは、一向に構いませんので。お気づかいありがとうございます。

それと、私のすむサンノゼで、うちの息子(2才)の歳に近い日本人で障害をもった人が私が知っているだけで、4人もいます。これが、私が知らない人や子供の年齢をの上の人や、もう少し街の範囲を広げるともっともっと、たくさんの人がいると思います。皆、日本の情報を欲しがっています。送って頂いたパンフレットも皆で回し読みする予定です。』

アメリカの西海岸サンノゼ地区ではまだ日本人の親の
組織などがないそうなので,Services to Parents of Exceptional Asian Children(情報提供:国立身体障害者リハビリテーションセンター学院倉内紀子)とニューヨークの在米日本人の障害児教育に詳しい専門家(情報提供:品川児童学園寺地和子)を紹介した。またAさんからはPHP
(The Family Resource Center,Meeting children's special
 needs through parents helping parents)というアメリカの
 保護者向け情報のページ  を教えていただき,ホームページにアクセスした。

これを契機に言語発達遅滞研究会ホームページでも保護者向け情報を載せることにし,「きこえとことばの療育」2)の言語発達遅滞の部分をホームページに掲載した(監修者の柴田貞雄と著者の倉井成子,発行者の愛の小鳩事業団の許可による)。 

<目次に戻る>

言語発達遅滞研究会ホームページには 「関連するホームページ」(図10) があり,ここから他のホームページへリンクできる。

3.1. AAC(Augmentative and Alternative Communication,補助代替コミュニケーション)関連情報


 「AAC・福祉機器情報」(図11) ではAAC(補助代替コミュニケーション)に関連した情報へのリンクを集めている。

3.1. 1. IBMこころWeb[http://www.jeida.or.jp/document/kokoroweb/]

<目次に戻る>

 IBMこころWeb(図12) では「こころリソースブック」というAAC
(補助代替コミュニケーション)に関連したコミュニケーション機器等の情報を掲載している(図13,こころリソースブック編集会および日本アイ・ビー・エム株式会社)。用途,会社,50音から機器を検索でき,製品名,製品の写真,会社,価格,用途等が載っている(図14)。

同じ内容が「こころリソースブック」3)という本として年1回刊行される。ホームページは即時に更新できるので印刷された本よりも改訂が容易であり,新製品の情報などを早く伝えることができる。

3.1. 2. エジンバラ大学のコールセンターEdinburgh's CALL Centre

<目次に戻る>

イギリスのエジンバラ大学the University of EdinburghにあるAAC関連のサービス提供や研究開発を行っているコールセンターCALL Centreを紹介している。CALLとは「言語と学習のためのコミュニケーションエイド Communication Aids for Language and Learning」の略である。

CALLやサービスについての紹介,刊行物や論文等が掲載されている。

これらの情報にはその地域の利用者から広くは英国内外の専門家までがアクセスできるので,情報の公開性が極めて高い。先のアメリカのPHPという保護者向け情報やこのCALLでも地域住民への情報提供が盛んに行われており,今後日本の臨床サービス機関も地域住民への情報提供サービスを積極的に行っていく必要があると考えられる。

<目次に戻る>

自分の得たい情報はインターネット上に散在しており,それを探し出すのは大変である。そのような場合には,ホームページの分野別に分類し登録したカタログページから辿っていく方法と,キーワードにより検索するサーチエンジンを用いる方法がある。NTTホームページ内のURLの広場に 検索リストがあり,カタログページやサーチエンジンの一覧がある。

カタログページで有名なのは,  Yahoo! Japan Yahoo! USA である。

The World-Wide Web Virtual Libraryには認知科学や心理学に関するカタログページのhttp//www.cog.brown.edu/pointers/cognitive.html
 http://www.w3.org/vl/Psychology/Psycoloquy.html がある。

<目次に戻る>

福祉・障害・心理学・言語学・医療関係を一覧するカタログ
ページがある。ここでは代表的なものをいくつかあげておく。

福祉・障害関連の情報は, 「障害者情報サービス」(東北大学小林巌)や 「福祉と障害者支援情報の総目次」 ミラーサイト (中部学院大学井村保)からスタートすることができる。

心理学関係では北海道大学文学部心理システム科学講座の「心理学&認知科学関係のサーバリスト」  に関連学会情報などがあり,信州大学繊維学部感性工学科湯田彰夫のインターネット上の心理学と認知科学の情報源「Resources for Psychology and Cognitive Sciences on the Internet」  
は海外の情報が充実している。

言語学関係では「国内言語学関連研究機関WWWホームページリスト」 のリンク集がある(東北大学後藤斉)。

医学関係のリンク情報では 「メディカルリンク100」(東京大学三浦嘉一郎)がある。医学関係の学会の案内は,  大学医療情報ネットワーク(UMIN)[IPアドレス 130.69.92.40]の「医学関連の学会のご案内」が網羅している。

<目次に戻る>

次にあげるのは,サーチエンジンによる検索結果の1例である。日本語では早稲田大学の 千里眼ホールインワンhole-in-one 等がある。早稲田大学の千里眼を用い「言語発達」という語で検索すると,言語発達遅滞研究会を含めて3件表示された。この検索結果は該当するページに直接リンクされているので,すぐにそのページにアクセスできる(言語発達遅滞研究会以外の他の2件は筑波大学の卒業論文または修士論文らしい。検索されたアドレスではアクセスできず未確認)。

英語圏では, アルタビスタaltavista ホットボットhotbot 
が有名である。アルタビスタaltavistaを用い「language development disorder」という語で検索してみた。disorderでヒットしたのが136556件,languageが2805819件,developmentは5574431件で,3語の組合せでは60000件がヒットしその中から最も適合する10件を表示した。

検索結果の10件の内,1・5・10番目の3件を示す。1番目は「精神障害の症状と治療Mental DisorderのSYMPTOMS & Treatment」に関する疾患別の 短文解説 であった。

「小児の障害CHILDHOOD DISORDERS」はアスペルガー障害Asperger's Disorderから始まり,表出性言語障害Expressive Language Disorderの項もある。

5番目はE-Mailによる意味−語用論障害に関する質問であった。コギトCogitoというハンドル名を持つルイジアナ州立大学の医学・臨床心理学専攻Medical/Clinical Psychologyの Jeff Browndykeのホームページ 上に質問とそれに対する回答や一連の応答メールが掲示されている。

10番目はカナダのマニトバの小児と家族へのリハビリテーションサービス  The Society for Manitobans with Disabilities (SMD)の案内だった。

身体障害や聴覚障害,言語障害・遅滞の小児を対象としている。

<目次に戻る>

言語発達遅滞研究会ホームページの 「関連するホームページ−心理学・認知科学その他関連分野情報」(図15) から 認知科学会(図16 )へリンクしている。 

(1)認知科学会

<目次に戻る>

認知科学会では,認知科学会の紹介,学術専門誌「認知科学」ご案内,「認知科学」投稿の案内,研究会の案内,テクニカルレポートの案内,「認知科学の発展」目次,「人材募集」,日本認知科学会が協賛している会議、催しもの,会議に関するWWWページ,認知科学関連の研究助成、催しもの,認知科学関連の出版社を掲載している。

筆者は認知科学会の会員ではないので,これらの情報を得るにはホームページを利用するのが便利である。このようにホームページは,その学会の研究分野に関心がある人にとって,会員ではなくても詳細な情報を得られるというメリットがある。

(2)認知科学会冬のシンポジウムのご案内

<目次に戻る>

95年12月にアクセスした際に,以下のような「認知科学会冬のシンポジウムのご案内」が掲載されていた。 

『午前の部では、以下のような2件のチュートリアル講演を予
定しております。
* 10:00-11:00 東森 勲 (京都女子大) 「談話と関連性理論」
* 11:00-12:00 石崎 雅人 (ATR) 「対話への実証的アプローチ」
テーマ:対話と談話
日時:1995年12月9日(土)
会場:慶應義塾大学三田キャンパス
(以下略)』

筆者は「対話と談話」というテーマに興味があり,
関連性理論にも関心があったので参加した。以前
「会話の発達」をテーマとして講演を依頼したこと
のある仲真紀子(千葉大)の助数詞の発達について
の発表もあった4)。

その会の中で,コンピューター同士が対戦する「対話リーグ」や音声対話資料を作成する千葉大学のコーパスプロジェクト注)等興味深い研究プロジェクトがあった。仲真紀子も千葉大学コーパスプロジェクトに参加していることも分かった。さらにほぼ同じ頃,雑誌「言語」で「対話の科学」特集5)があり,その中で小磯花絵5)が「千葉大のコーパスプロジェクト」について触れていた。

注)コーパス 《記録された発話・テキストの集積; 言語資料》6)

(3)千葉大コーパスプロジェクト

<目次に戻る>

そこで千葉大の認知科学のホームページにアクセスしてみると,コーパスプロジェクトの紹介が掲載されていた。

(4)講演依頼のメール:千葉大土屋教授宛

<目次に戻る>

詳しい内容について知りたいので,コーパスプロジェクトの中心メンバーの1人である土屋俊教授にE-Mailで講演を依頼した。 

『私は横浜市総合リハビリテーションセンターの言語療法士で小児の言語障害児(難聴・言語発達遅滞・構音障害)の臨床に携わっています。

仕事がら会話の分析や発達に関心があり,以前会話についてのご講演を仲先生にお願いしました。‥‥中略
先日の慶應大学三田で行われた認知科学会冬のシンポジウムに参加し,(中略)シンポジウムでも発表され,雑誌「言語」の特集にも載っている千葉大のプロジェクトについて,ご講演いただけないでしょうか。‥‥後略』

土屋教授には96年8月に「千葉大のコーパスプロジェクト」を中心に会話研究の背景等について講演していただいた。会話の収録方法および分析方法に関する具体的な情報,さらに会話研究に関する新しい視点が得られ有益だった。その後千葉大の研究のもとになっているエディンバラ大学の「HCRC人間コミュニケーション研究センターHuman Communication Research Centre」の 「HCRC地図課題the HCRC Map Task」のホームページ にアクセスしてみると,エディンバラ大学における地図課題について詳しく紹介されていた。

このようにインターネットを介して通常では得ることが困難であるが,臨床的な関心と交差する有益な情報を得ることができた。

3.3.文献検索−データベース


インターネット上には書籍や論文に関する情報がある。

3.3.1. 書籍カタログ・オンライン書店

<目次に戻る>

E-Mailやホームページ上からオンラインで書籍を検索し購入できる。書籍についてのカタログページは以下のようなものがある。

 「図書館流通センターTRC Tosyokan Ryuutuu Center」社 では,インターネット上に新刊情報を掲載し注文もできる(7,000円以上まとめて注文すると送料が無料。)。

新刊情報はカテゴリー別に分かれているので,ブックマークに登録し定期的に巡回すると便利である。

 日外アソシエーツのEB(電子ブック)全情報タイトル一覧 では,パソコンのCD-ROMで利用できる電子ブックの一覧を載せている(「電子ブック全情報」著作権は永田健児)。

<目次に戻る>

言語発達遅滞研究会ホームページの「関連するホームページ−図書館・文献検索紹介」(図17)から各地のオンライン図書館や文献検索へとリンクしている。 

<目次に戻る>

OPAC(Online Public Access Catalog)というオンラインの図書館目録サービスがある。国内の図書館を網羅しているのが 「日本の図書館と目録サービスへジャンプ!!(図18)」 である。ここを起点に国内の大学図書館等にリンクすることができる。

<目次に戻る>

書籍の検索に筆者がよく用いるのが, 千葉大学附属図書館(図19) 検索ページ(図20) である。このような検索結果はE-Mailと同様テキストデータとしてそのまま再入力せずに,利用可能である。 

『千葉大学附属図書館検索結果言語発達遅滞訓練マニュアル : 記号形式-指示内容関係に基づく〈S-S法〉 / 佐竹恒夫[ほか]著. - 横浜市 : 言語発達遅滞研究会, 1994.2. - 2冊 ; 26cm.発売: エスコアール』

<目次に戻る>

パソコン通信やインターネットに関する先進的な学問領域の1つが,生物・医学系である。筆者が文献検索等に関する情報を得たのもNifty-Serveのフォーラム「Bio-Net バイオフォーラム」,特に「FBIO,5番会議室知的生産技術.パソコン.ソフト.論文.統計等」や「医療情報館FMEDINFO,2番会議室「医学文献」検索情報交換広場(Cyclic)」からであり,書籍としては「MacBook」からである。

「バイオ研究者のための MacBook (マックブック)」7)は印刷本注)と同時に「Web本MacBook」としても,[http//www.dna.affrc.go.jp/htdocs/MacBook/] で公開されている。特に「5章インターネットを使った検索の実践」では,
「〈文献検索〉オンライン文献検索への道,フリーでアクセスする医学情報の入手,JICST文献情報の入手,有料文献情報へのインターネットアクセス」があり,付録には電子図書館リストやデータベース一覧が掲載されており,充実した内容である。

注)「この本の改訂版というべき「ザ・インターネット」8)がWindows に関しての 説明も付けての登場。‥‥Web版 
[http://www.dna.affrc.go.jp/htdocs/INET/]
「ザ・インターネット」With Macintosh & Windows鵜川義弘、
水島 洋、金子周司他著」
「MacBook」の共著者の1人で文献データベースに関連する
貴重な情報と実践を提供している梶原賢一郎のホームページ
「医療・福祉に関するページ」[http//web.ktarn.or.jp/medical.html]
がある。 「学術研究WWWブラウザ」には,「医療情報」や「各種関連情報」,特にオンライン文献検索に関するポインター(「文献検索 」)が充実している。

信州大学繊維学部感性工学科湯田彰夫の 「インターネットにおける心理学関連情報」 はインターネットを利用した情報入門を兼ねている。

後述するUnCoverの検索方法も具体的に書かれている。

(2)日本国内の文献情報:JOIS(ジョイス)

<目次に戻る>

 JOIS(ジョイス:JICST Online Information System) はJICST(日本科学技術情報センター)が提供する科学技術全般を対象としたオンライン文献データベースサービスである。Nifty-Serve等からもアクセスできる。収録データの文献はオンラインで複写の注文が可能である。ただし短時間(5分くらい)接続し数件検索するだけで500円〜1,000円かかり,後述するアメリカのサービスと比べると高い。

『JOIS 検索例
キーワード
KW  ヒト; 小児病; 幼児; 言語障害; 精神薄弱; 教育訓練; 
記号; 選択; 言語療法; リハビリテーション; 学習; コミュニケーション; 語い
JICST COPYRIGHT
CN  90A0042634
TI  言語記号末習得児における記号形式‐指示内容関係の形成
AU  佐竹恒夫 (横浜市総合リハビリテーションセンター); 
那須道子 (八千代市言語治療‥‥
JN  Z0214B (0030-2813) 音声言語医学
VN  VOL.30,NO.4 PAGE.316‐327 
1989AB  1)言語記号未習得の言語発達遅滞児5例
(3〜5才)に,記号形式―指示内容関係に基づく
言語訓練を実施し,訓練プログラムの有効性を検討した。
2)5例とも設定した記号形式―指示内容関係の段階
すなわち,<段階2―1事物の機能的操作‥‥』

『「JOIS」接続基本料金100円/回接続時間料金115円/分
一部項目25円/件全項目95円/件(国内医学文献情報115円/件)』

<目次に戻る>

CARL(Colorado Alliance of Research Libraries)
が提供する UnCover は手軽にアクセスできるデータベースである。

telnetで接続して目次だけを引くには無料で特に契約等も必要ない。先のJOISと比較すると日米の格差がはっきりと分かる。 

『UnCoverによる雑誌
「Augmentative and alternative communication」の目次検索例
TITLE:
Augmentative and alternative communication
ISSUE: 06/01/96  v 12 n 2
-----------------------------
AUTHOR TITLE PAGE
001 Beukelman,D.R. Reflections of a Finished.... 61
002 Franklin, Kate Comparisons of Five Symbol ....  63
.....................................
008 Mirenda, Pat Tentative Schedule for ISAAC'96..127 
END OF CONTENTS...』

<目次に戻る>

PaperChase(PCH)  はボストンBeth Israel Hospitalが提供しているMEDLINE,HEALTH,AIDSLINEを含む文献データベースであり,VISAやMasterCardのようなクレジットカードを所有していれば,インターネット経由でオンライン契約して即座に使用することができる7)

PCHに接続するとメッセージが出る。1995年のJSHR(Journal of Speech & Hearing Research=アメリカのSTの学会誌)でAACをキーワードに引くと(年度1995,雑誌名JSHR,キーワードAAC)2編見つかる。JSHRの全論文の要約abstractが入手できる。これもテキストデータなのでそのまま用いることができる。 

『PCHの接続
Hello TSUNEO SATAKE
Welcome to PaperChase.
PaperChase provides 9,174,376 references 
Database  Indexing Began  Updated  Current Through
MEDLINE  1966 weekly Aug 1996 Update, Part 5』

『PCHの検索例
Higginbotham DJ  Scally ‥‥
Discourse comprehension of synthetic speech across three 
augmentative and alternative communication (AAC) output 
methods. [Additional information: ABSTRACT ONLINE]
In: J Speech Hear Res (1995 Aug) 38(4):889-901
  The purpose of this investigation was to determine 
  the relative effects of three different Augmentative 
  and Alternative Communication (AAC) speech output 
  methods (word, sentence, mixed words and letters)‥‥』

<目次に戻る>

電子情報はテキストなどのオンライン情報がそのまま利用できるので便利である反面,著作権に関する配慮を厳密に行わないと容易に著作権を侵害してしまう。例えばあるホームページにあった情報が有益なので,自分のパソコンのメモにコピーしておいたが,いざ引用しようとしようとしたときには著作者がわからない,あるいは極端な場合には他人の情報をコピーしたことを忘れ,自分で書いたメモだと思い込みそのまま自分の論文に使ってしまう,等のことが容易に起こりうる。そのような事態を避けるためには,日頃から電子情報をコピーするときには必ず出典が分かるように元データの著者やホームページのアドレス等を同時に残すようにする等の具体的な配慮が必要である。著作権については, 横井信「マルチメディア時代の出版と著作権」 []9),10),「著作権法入門(第4版)」11)参照。

<目次に戻る>

インターネット上では,比較的小規模な人数で専門的な領域に関する情報交換やディスカッションを行う場として多種多様なメーリングリスト(mailing list=ML)が存在する。96年3月に言語発達遅滞研究会でもメーリングリストを開設した。

言語発達遅滞研究会メーリングリストの目的は,
(a)会合等の事務連絡,
(b)臨床的なディスカッション,である。
将来的には臨床家からの臨床相談等へと拡大したい。 

『言語発達遅滞研究会メーリングリストオープンにあたってインターネット上では,比較的小規模な人数で,専門的な領域に関するディスカッションの場として多種多様なメーリングリスト(mailing list=ML)が行われています。

−新たな臨床的コミュニケーションの試み−
臨床に関するディスカッションがなかなかできない,このケースについてもっと他の人の意見も聞いてみたい,面白い論文を読んだので紹介‥‥と日頃から感じていませんか。

そこで言発研でもメーリングリストを開設し,フランクで真摯なディスカッションの場,臨床井戸端会議‥‥』

『学術講演会プログラムが最終的に確定したので,お知らせします。

今回抄録が締め切り1週間以内でほぼ揃ったという奇跡的(?)な事態が生じています。

96/4/27 音言委結果報告
いずれ詳しいものが送られると思いますが,取りあえずメモを。』

『1996.03.02〜3.11
さて,今回はその延長で状況文脈の生成について。
95年4月初期評価。事物の意図的な操作はほとんどない。
96年2月現在。机上のバチ・小球などを自発的に取る+‥‥
(3)事物の目的的操作ができるに従い,(a)落としたものは見ない→落とした物の方を見る‥‥』

<目次に戻る>

インターネットの臨床的な活用について述べた。インターネットを活用することにより,臨床的な情報の探索と取得が容易となり,臨床的なコミュニケーションを活発にする媒体として用いることができる。印刷物にはタイムラグが存在するが,インターネット上の情報提供はリアルタイムで行うことが可能である。既に情報工学関係ではインターネット上のオンライン学会誌があり,ISSN(国際標準逐次刊行物番号)も取得している。

言語発達遅滞研究会のインターネット利用の今後の方向として,ホームページに関しては,
(a)関連するWWW(ホーム)ページの拡充,
(b)保護者向けの情報の充実,
(c)論文の掲載,等を検討しており,メーリングリストでは
臨床家向けの電子メールによる臨床相談が考えられる。
本稿がこれからインターネットを始めようと考えている方にとってインターネットを利用し,臨床的なコミュニケーションが活発になるきっかけとなれば幸いである。

謝辞

<目次に戻る>

快く論文への掲載をご了承いただいた各Web作成者・管理者の皆さんに感謝します。

お断り

文中敬称略。
掲載されている社名や製品の名称は,各社の商標または登録商標の場合があります。

<目次に戻る>

1)戸田慎一,影浦峡,海野敏:インターネットで情報探索.日外アソシエーツ,1994.
2)倉井成子,山田麗子:ことばの遅れ.きこえとことばの療育−お母さま方へのアドバイス−(柴田貞雄監修),財団法人愛の小鳩事業団,pp.22-30,1988.
3)こころリソースブック編集会(代表者:中邑賢龍):こころリソースブック.こころリソースブック編集会,1995.
4)日本認知科学会:1995年度 日本認知科学会シンポジウム「対話と談話」資料,1995.
5)小磯花絵:<対話>へのアプローチ.月刊言語Vol.25 No.1,20-29,1996.
6)リーダーズ+プラス (EPWING CD-ROM 版).研究社,1996.(『リーダーズ英和辞典』,1984;『リーダーズ・プラス』,1994)
7)鵜川義弘,水島洋編:マッキントッシュとインターネット−医学・バイオ・ゲノム研究へのネットワーク完全活用ガイド−.羊土社,1995.
8)鵜川義弘、水島 洋、金子周司他:ザ・インターネットWith Macintosh& Windows.羊土社,1996.
9)横井信:マルチメディア時代の出版と著作権.http://web.ktarn.or.jp/kurume-u-hp/yokoi.html.
10)横井信:医学出版の電子化の現況,課題,将来像−マルチメディアと著作権処理.第16回医療情報学連合大会・ワークショップ「医学における電子出版と著作権」資料,1996.
11)著作権法令研究会:著作権法入門(第4版).著作権情報センター,1995.

 



      


NPO法人言語発達障害研究会   事務所 〒292-0825 千葉県木更津市畑沢2-36-3
                    TEL & FAX 0438-30-2331



プライバシーポリシー   リンク・著作権   アクセシビリティ
copyright(C) 2019 NPO法人言語発達障害研究会 .All rights reserved.